イノベーションはサラリーマンを幸せにしない中編
どうしてイノベーションがサラリーマンを幸せにしないのか、それはイノベーションはサラリーマンではなく、企業のためのものだからです。
資本主義の世の中で企業の役割というのは、大きくなることです。
常に利益を上げること、利益を大きくしていくこと、これが企業の目標です。
僕が働いている会社も、そしておそらくあなたがサラリーマンとして働いている会社も当たり前のようにして毎年利益目標というものを出すと思います。
そして誰も、それを出すことに疑問を持たないのです。
その、利益を出す、そして大きくなっていくこと自体が会社の目的だからです。
企業が大きくなっていくためには利益を出さないといけません。
利益を大きくしていくための方法の一つに生産能力を上げるということがあります。
たとえば、これまで手作業で梱包していたところを機械で梱包するようにすれば1時間で梱包できる量は増えます。
これが生産能力が上がるということです。
そして、この機械を導入するということが一つのイノベーションですよね。
他にも、昔は計算を手計算でやっていたのに、計算機ができ、パソコンができ、とどんどんイノベーションが起こるにつれて
計算速度が飛躍的に伸びました。
こうやってイノベーションを見てみると、イノベーションというのは企業で生産性を高めるために起きているんですね。
決してサラリーマンの給料を上げてくれている訳ではありません。
さらに、イノベーションが進むと幸せにならないどころか、どんどん不幸になっていきます。
どうしてかを見ていきましょう。
資本主義では、市場に人々が商品を持ち込んでそこで交換が行われています。
たとえば、あなたが異性にモテる方法を解説した動画をインターネット上に持ち込めば、それをほしいと思った人がお金と交換してくれるのです。
これであなたは手元にお金を手にいれることができます。
どうして、お金と交換してくれるかというと、払うお金以上にあなたが市場に持ち込んだ異性にモテる方法という商品に価値があると感じてくれたからですよね。
じゃあ、そう感じるのはどうしてか、お金を払ってくれる根本は「差」にあります。
お金と同じくらいの価値があるけれども、お金を持っているだけでは解決できない問題を解決してくれそうだから、異性にモテる方法という商品にお金を払ったのです。
他のものと差別化できる、独自性があるという言葉で言い換えることができるかなと思いますが、とにかく差があるというのがお金をいただく上で大事な視点です。
たとえば、貿易ですが、これは空間的な差に注目したビジネスです。
日本で1万円で売られているものが、アメリカに持っていくと2万円になって売れる。だから日本で1万円で買って、アメリカで2万円で売り、その差額である1万円をいただく。
これが貿易の考え方ですよね。これは地域の差、空間的な差が生み出した価値です。
じゃあ、イノベーションの話に戻りますが、イノベーションというのは時間的な差から利益を生み出しているのです。
イノベーションによってある企業だけ、生産能力が向上したとします。
ある商品の原価が3万円だったのが、1万円で作れるようになったのです。
すると、その企業は商品の値段を下げることができますよね。
3万円で作っていたものが1万円で作れるようになったので、原価が下がるからです。
安く売っている上に性能が同じなので、当然買う人は安い方を買います。
だからイノベーションを起こすことのできた企業は利益を独占でき、大きく稼ぐことができるんですね。
ところが、イノベーションを起こすと、ほかの企業もそのイノベーションに追いついてきます。
利益を1社だけに取られると困るので、他の企業も頑張るわけですね。
結果、どの企業も原価3万円だったのが、1万円で作ることができるようになってまた元に戻るわけです。
イノベーションを起こしても一時的に利益を独占できるだけなんですね。
これが時間的な差で利益を生み出しているということです。
さて、それでは改めて今の世の中を見てみましょう。
今は簡単に世界と繋がれるので、空間的な差というのはほとんどなくなっています。
交通網も発達して、簡単に海外に行けますし、インターネットがあるので、情報ならアメリカからの情報でも東京からの情報でも自分の元にくる時間は変わりません。
イノベーションのスピードも早くなっています。
去年のイノベーションは今年にはもう古くなっているというのはよくあることです。
こういう世の中なので、企業はイノベーションで他の企業と差をつけることは難しくなっています。
最初の方に話が戻りますが、企業の目的は大きくなることです。
イノベーションで差をつけることが難しくなった企業は、利益を大きくするために次に何をするかというとサラリーマンをどんどんリストラしているのです。
よく終身雇用がもう無理ということが言われていますが、それはイノベーションが回り回って起こしたことかもしれません。
これがイノベーションがサラリーマンを幸せにしないどころか、不幸にする理由です。